
「なぜ、うちのチームはこんなにも動けないのだろうか」
深夜のオフィスで、あるいは帰路につく車中で、そんなやり場のないもどかしさに胸を締め付けられたことはありませんか。
自分一人では到底回しきれない仕事の量。
それなのに、周りを見渡せば理想とは程遠い動きしかしないメンバーたち。
期待を込めて指示を出しても、返ってくるのはどこか他人事のような返事と、最低限の義務すら怪しい実行力。
まるで重たい泥沼の中を、自分一人だけで全員を背負って進んでいるような感覚。
コントロールできない他人の言動に振り回され、もどかしさと孤独が渦を巻き、胃のあたりが重くなる。そんな「リーダーの孤独」を感じているあなたに、僕は一つの視点を提案したいのです。
正しさという鎖が奪い去る生命力
僕たちは、人を動かそうとする時、知らず知らずのうちに「正しさ」や「指示」という名の鎖で相手を縛り付けてはいないでしょうか。
かつての僕もそうでした。
誰かに言われたことを、言われた通りにこなすだけの日々。
その頃の僕の心を満たしていたのは、自立したプロ意識ではなく、自分の意思を置き去りにされたことへの「静かな抵抗感」でした。
「どうして私がこれをやらなきゃいけないんだ」
「指示が悪いからうまくいかないんだ」
そんな不満を口にしながら、エネルギーは外ではなく、自分の内側の不満を抑え込むためだけに消費されていく。
指示に従うという受動的な行為は、僕たちの生命力を驚くほど奪い去ります。
もし、あなたの目の前にいるメンバーが動かないのだとしたら、それは彼らが無能だからではなく、単に「他人の物語」を生きることに疲弊しているだけなのかもしれません。
人は、誰かの意思に乗っ取られていると感じる時、無意識にブレーキをかけます。
それは、自分という「固有の存在」を守るための、本能的な防衛反応でもあるからです。
観測者を自分へと移し替える魔法
では、どうすれば彼らの足元にあるブレーキを外し、自らアクセルを踏ませることができるのか。
その鍵は、驚くほどシンプルな「自己決定」というプロセスにあります。
僕が職場で試み始めたのは、朝のわずかな時間を使って、今日一日の行動を「自分で決めさせる」という習慣です。
例えば、障害支援の現場であれば「誰の、どの部分を、どう支えるか」を、営業の現場であれば「今日は何本の電話をかけ、どんな声を拾うか」を、本人の口から宣言してもらうのです。
不思議なことに、人は「言われたこと」は平気で後回しにしますが、「自分で決めたこと」は最後までやり切ろうとします。
この違いは、どこから生まれるのでしょうか。
心理学の世界では、これを「自律性」という言葉で説明します。
自分の行動を自分で選択しているという感覚がある時、人は初めてその行動を「自分のもの」として引き受けます。
「上司に言われたからやる 10 件の電話」は苦痛なノルマですが、「自分で決めた 10 件の電話」は、自分との約束を果たすという誇り高い挑戦に変わります。
観測者の視点を、厳格な上司から「自分自身の誠実さ」へと移し替える。
この小さなスイッチの切り替えが、死んでいた目に光を宿し、停滞していた事業のスピードを劇的に加速させるのです。
自由という名の放任を避けるレールのデザイン
もちろん、こう反論したくなる気持ちも分かります。
「自由に決めさせたら、みんな楽な方へ逃げてしまうのではないか」「目標を低く設定して、サボる口実にするのではないか」と。
確かに、何の指針もなく「好きにしていいよ」と丸投げするのは、自由ではなく放任です。
そこで重要になるのが、リーダーによる「レールのデザイン」。
すべてを委ねるのではなく、まずは目指すべき方向へと続く道をしっかりと敷く。
その枠組みというレールの上で、「さて、この中なら今日はどこまで進む?」と選択肢を提示するのです。
広い荒野で途方に暮れさせるのではなく、整えられたフィールドの中で「自分の意思で一歩を踏み出す」という体験をさせる。
このデザインこそが、リーダーの真の仕事です。
人は本来、欠乏感を感じることを嫌い、安心できる領域に留まろうとする生き物です。
いきなり未知の領域へ飛び込めと言われても、恐怖で足がすくむのは当たり前です。
だからこそ、まずは「自分で決めて、やり切った」という小さな成功体験を積み上げ、彼らの内側にある「安心の基地」を広げていく必要があります。
繰り返しの日常を確実な前進へと変える
自分で決めたことを、自分の手で完結させる。
その繰り返しが、昨日と同じことの繰り返しだった日常を、確実な前進へと変えていきます。
「昨日よりも、支援の解像度が上がった」
「昨日よりも、顧客の悩みを深く聴けた」
そうした手応えは、外部からの褒美(承認)を待つ依存的な姿勢を、自らの行動で自分を認めていく自立的な姿勢へと塗り替えていきます。
職場から「不機嫌なため息」が消え、代わりに「次の一手」を模索する建設的な会話が聞こえ始める。
そんな景色の変化は、もうすぐそこまで来ています。
もし今、あなたが「誰も動いてくれない」という絶望の中にいるのなら、どうか自分を責めないでください。
そして、動かない彼らを責めるエネルギーを、ほんの少しだけ「場をデザインすること」へ向けてみてください。
人は、自分を「生かす言葉」を待っています。
「〇〇なんだから、こうしなさい」という鎖ではなく、「それは、あなたらしい決断だね」というスポットライトを。
あなたが敷いたレールの上で、彼らが自らの一歩を選び取ったとき。
その一歩は、あなたの想像を超えるスピードで、事業を、そして彼ら自身の人生を、望む未来へと運んでいくはずです。
まとめ
僕たちは、他人をコントロールすることはできません。
けれど、人が「自ら動き出したくなる環境」をデザインすることはできます。
朝、メンバーに問いかけてみてください。
「今日は、何をやり切りますか?」と。
その答えがどれほど小さくても、自分の意思で言葉にされた決断を、まずは丸ごと受け入れてみてください。
「自分で決める」という聖域を守り続けることで、組織は「義務の集団」から「意思の集合体」へと進化します。
その時、あなたはもう、一人で泥沼を歩く孤独なリーダーではありません。
それぞれの足で力強く大地を踏みしめる、自立したプロフェッショナルたちの伴走者になっているはずです。
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