好きなことで生きていくとは?欠乏動機と自己実現から考える働き方の本質

「好きなことで生きていく」

この言葉は、多くの人が一度は憧れるフレーズです。

しかし現実には、ほとんどの人がやりたくない仕事を選び、生活のために時間と労力を費やしています。

 

ではなぜ、多くの人は好きなことで生きられないのでしょうか。

そして「好きなことで生きる」ためには、どのような心理的・構造的な転換が必要なのでしょうか。

 

今回の記事では心理学的な視点から、このテーマを「欠乏動機」と「自己実現動機」という二つの観点で整理してみたいと思います。

 

 

 

好きなことで生きるという幻想と現実

まず整理したいのは、「好きなことで生きる」というフレーズが誤解を生みやすい点です。

たとえば、

  • 絵を描くのが好きだからイラストレーターになる

  • 文章を書くのが好きだからライターになる

  • ゲームが好きだからプロゲーマーになる

こうした例は耳にしますが、実際に好きなことをそのまま収入に変えられる人はごく一握りです。

なぜなら、 収入を得るという行為は「欠乏を埋めるための手段」として社会に組み込まれている からです。

 

お金は、生きるために必要な衣食住を確保するために欠かせない。

そのため「稼ぐ=欠乏を補う行為」となるのは必然であり、結果として「やりたいこと」より「やらなければならないこと」が優先されてしまうのです。

欠乏動機で働くとはどういうことか

心理学者マズローは、人間の欲求を「欠乏動機」と「成長動機(自己実現動機)」に分けました。

欠乏動機とは、不足を補おうとするエネルギーです。
例えば、

  • お腹が空いたから食べる

  • 安定した収入を得るために働く

  • 孤独が怖いから人間関係を維持する

こうした行動はすべて「足りないものを埋めるため」の動きです。

 

仕事の大半はこの欠乏動機に基づいています。

「生活費のため」「ローン返済のため」「家族を養うため」

こうした目的はすべて「欠けを埋めるための働き方」なのです。

 

その結果、多くの人にとって仕事は「やりたいこと」ではなく「やらなければならないこと」になります。

好き嫌いにかかわらず、欠乏が僕たちを動かしているのです。

自己実現動機で働くとは?

一方で、自己実現動機とは「すでに満たされている状態からさらに表現したい・創造したいという動き」です。

たとえば、

  • 自分の好きな音楽を世に届けたい

  • 誰かの役に立つサービスをつくりたい

  • 文章や作品を通して自分を表現したい

これらは「足りないからやる」のではなく、「やりたいからやる」行動です。

そして、ときどきこの自己実現動機が収入に結びつく瞬間があります。

するとどうなるか。

欠乏を埋めるための労働から解放され、やりたいことをやっているうちにお金が入る という状態になるのです。

これは多くの人が憧れる「好きなことで生きていく」という感覚に近いものです。

好きなことで稼げる人と稼げない人の違い

では、なぜ一部の人は好きなことで稼げるのでしょうか。

 

僕の考えでは、その違いは 「欠乏を満たすためにやっているか」「自己実現の延長としてやっているか」 にあります。

例えば、同じようにYouTubeを始めても、

  • 「お金を稼ぎたいからとにかく伸びそうな動画を作る人」

  • 「自分が好きで仕方ない分野をとことん掘り下げて発信する人」

この2人の間には大きな差が生まれます。

前者は再生回数に一喜一憂し、数字が伸びないとすぐに疲弊します。

後者は数字が伸びなくても好きだから続けられる。

結果として、深みのある発信ができ、長期的にファンがついていく。

つまり、「自己実現動機で続けられるかどうか」が分かれ道になるのです。

欠乏動機から自己実現動機へシフトする方法

ここで多くの人が抱く疑問があります。

「じゃあどうやったら欠乏動機から自己実現動機に移れるのか?」ということです。

僕は次の3つのステップが重要だと思います。

1. 欠乏を認める

まずは「生活のために働かざるを得ない」という現実を否定しないことです。

「いやだ、やりたくない」と思っても、安心欲求を無視して自己実現に走ると必ず破綻します。

欠乏を欠乏として認め、その土台を固めることが最初の一歩です。

2. 小さく自己実現を始める

次に、欠乏を満たす労働とは別に「やりたいからやること」を少しずつ始めます。

絵を描く、文章を書く、企画を考える、動画を撮る…。

収入につながらなくても、「好きだからやる」ことを習慣にしていくことが大切です。

3. 欠乏と自己実現を接続する

最後に、「やりたいこと」と「社会が求めること」を接続する段階です。

自分の表現や活動が、誰かの役に立つ形で提供できると、自然とお金が流れ込むようになります。

この接続がうまくいったとき、初めて「好きなことで生きていく」という感覚が訪れるのです。

好きなことで生きる人の具体例

ここで、いくつかの具体例を挙げてみます。

  • 料理好きから料理研究家
    最初は趣味でレシピを発信していた人が、SNSでフォロワーを集め、本を出版し、最終的に仕事につながった。

  • ゲーム好きからプロゲーマーへ
    ひたすらプレイ動画を投稿し続けていた人が、やがて大会で優勝しスポンサーを獲得した。

  • 文章好きからライター・作家へ
    ブログに毎日記事を書き続けた人が、少しずつ依頼を受けるようになり、出版まで至った。

これらはすべて、欠乏のためにやったのではなく、「やりたいからやったこと」が収入に転換された事例です。

好きなことで生きることの本当の意味

「好きなことで生きる」という言葉は、決して「楽をしてお金を得る」という意味ではありません。

むしろ、欠乏動機に依存しないだけの自己実現を積み上げた結果として訪れる境地です。

僕はこう整理しています。

  • 好きなことで生きるとは、 欠乏を満たすためではなく、自己実現の延長で収入を得ること である。

  • 欠乏を否定せず、むしろ土台として認めたうえで、少しずつ自己実現を重ねていく必要がある。

  • その結果として、「やりたいからやる → 誰かに価値を届ける → お金になる」という循環が生まれる。

これが、「好きなことで生きていく」の本質だと思います。

 

 

 

まとめ

多くの人が好きなことで生きられないのは、お金を稼ぐという行為が「欠乏動機」に基づいているからです。

しかし、ときに自己実現動機で活動し、それが社会的価値と結びついたとき、欠乏動機に依存しない収入が生まれます。

その状態こそが、「好きなことで生きていく」という感覚なのです。

 

僕はこの記事を通して、「好きなことで生きる」ことが単なる幻想ではなく、心理的なプロセスと社会的な接続の結果であることを伝えたかったのです。

もし今あなたが「やりたくないけど仕方なく働いている」と感じているなら、まずはその欠乏を認めることから始めてください。

そして、少しずつ「やりたいからやる」ことを生活に取り入れてみてください。

その積み重ねの先にこそ、本当の意味での「好きなことで生きる」が待っているのだと思います。

 

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