悲しいこと、つらいこと、嬉しいこと、幸せなこと――
そのすべてを含んだ記憶の上に、僕たちの「今」は積み上げられています。
「過去なくして今はない」とよく言いますが、僕たちは本当に、今の人生を過去の上に築き上げることができているのでしょうか?
そんな問いに静かに寄り添ってくれる作品が、今回ご紹介する短編アニメーション『つみきのいえ』です。
12分に凝縮された、人生の美しいメタファー
『つみきのいえ』は、たった12分の短編アニメーション。
セリフは一切ないのに、観終わった後にはどこか胸が温かくなり、自分の人生に思いを馳せたくなる。そんな作品です。
物語の舞台は、水位が年々上昇し続ける世界。
主人公のおじいさんは、沈んだ部屋の上に新しい部屋を「積み木」のように重ねて、家を高くして生きています。
そんなある日、愛用していたパイプを落としてしまい、それを拾うために海の中へと潜っていくところから、物語は静かに動き出します。
記憶の海に潜るということ
おじいさんが海に潜っていくと、かつて暮らしていた部屋が次々と現れ、そこには大切な思い出が息づいています。
一緒に食卓を囲んだ家族の姿。
夫婦で踊ったひととき。
子どもが笑っていた部屋。
それぞれの階層にあるのは、失われた「家」であり、そこにあった「時間」であり、「人生」そのものでした。
普段は水面下に沈んで見えなくなっているけれど、確かにそこに家があり、記憶がある。
それは、私たち自身の人生も同じです。
今ここにある自分という存在も、過去の積み重ねの上に成り立っているのです。
過去を「なかったこと」にしないという選択
正直に言えば、僕自身も過去に向き合うのが怖かった時期があります。
失敗したこと、後悔していること、思い出すと胸が締め付けられるような出来事。
そんな記憶に蓋をして、なかったことにしようとしていました。
けれど、『つみきのいえ』を観て気づかされたのは、「それらの記憶も、今の自分という家の一部なんだ」ということ。
積み木をひとつ取り外したら家が崩れてしまうように、どんな過去も人生の土台になっている。
だからこそ、都合の悪い記憶をなかったことにするのではなく、「あってよかった」と受け入れていく必要があるのだと思います。
過去を受け入れることで、未来を積み上げられる
僕たちはつい、「今の自分は過去のせいでこうなってしまった」と思いがちです。
だからこそ、その過去を切り離したくなる。
でも、それをしてしまうと、新しい積み木を積む場所がなくなってしまう。
どんな過去も、抱きしめること。
自分の人生の一部として、丁寧に重ねていくこと。
それが、自分の人生を本当の意味で「自分のもの」にしていくということではないでしょうか。
まとめ
『つみきのいえ』を通して改めて感じたのは、「過去の上に今は成り立っている」という、シンプルだけど大切な真実でした。
僕たちはこれからも、自分の人生という「つみきのいえ」を積み上げていきます。
そのひとつひとつを、丁寧に、大切に積み重ねていくこと。
それこそが「生きる」ということなのかもしれません。